映画 蝉しぐれ スペシャルコンテンツ 掲示板 監督日記 オープンセット・資料館 リンク トップ 山本甚作画 海坂の風景 庄内の歴史 海坂藩とは ロケ地紹介 かわら版 スペシャルコンテンツトップページへ

藤沢周平氏の最高傑作「蝉しぐれ」の映画化 - 映画監督 黒土三男、十四年越しの願いがかない、2003年秋、いよいよ撮影に入った

--------------------------------------------------

1990年代から、出版業界・放送業界において「時代劇」という
ジャンルが一大ブームとして取り上げられ、二十一世紀に入りその動きは大きなピークを迎えようとしています。数々の作家が「時代劇」を
題材に小説を発表し、また映画界でも市川崑や山田洋次といった巨匠たちがこのジャンルで新作を世に送り出し、国内のみならず海外でも高い評価を得ています。

 この一連のブームを見つめ直してみますと、「時代劇」は、日本人が世界へ向けて発信することができる日本独自の文化であることを改めて印象付けられます。
 我々は「時代劇」の中に、日本人が理想として追い求めている
原風景を見出しているのかもしれません。さらに掘り下げて考えて
みますと、傑作といわれる時代劇小説の主人公たちには、日本人のみならず、全ての人々が共通して求める本当の姿、理想像が描きこまれています。時代劇小説を扱った日本映画の名作群が、世界のメジャーな映画祭で高く評価される要因はここにあるのではないでしょうか。

 この大きな隆盛をみせている「時代劇」ブームの中心に位置するのが、藤沢周平氏が世に送り出した珠玉の作品群といえます。藤沢周平氏は 六九年の生涯の中で、62冊の著書を世に残しました。文壇の デビューは40代後半。約20年という歳月で数々の傑作小説を生み出し続けたことになります。英雄でもなく偉人でもない、名もなき下級武士や市井の人々を主人公に据えて物語を描き続け、多くの読者から熱烈な支持を受け続けています。小説に登場する人物は、いずれもリアリティー溢れる描写と弱者へ注がれる視点から、圧倒的な存在感と郷愁を放ちながら物語の流れを紡いでゆきます。彼は時代小説というジャンルながらも、時代や人種を超えて「人間としてなくしてはいけない普遍的なもの」を徹底して描き続けた作家でありました。死後、10年近くが経とうするなかでその存在感は一層輝きを増し、近年のブームの中心を担う役割を果たしています。かつて、作家・丸谷才一は、「明治大正昭和の三代の時代小説家を通じて、並ぶもののいない文章の名手」と評しました。司馬遼太郎、吉川英治と並ぶ最高の小説家として近代文学史に名を刻んでいるといえるでしょう。

そして「蝉しぐれ」です。

 どれもこれも選びがたい名作群のなかでも、抜きん出て秀でた傑作中の傑作といわれています。東北の小藩・海坂藩(うなさか/山形・旧庄内藩がモデルといわれています)でつつましく生きる下級武士・牧文四郎が、少年期から体験する辛苦、そして幼馴染・ふくとの切なく美しい恋を縦軸にして展開される物語です。志を曲げずに信念にしたがった結果、世間に誤解を受け切腹させられる父。父を恥じずに母を助け、懸命に勉学と剣に励み、初恋の人を一生想い続ける主人公・文四郎の姿に 読者の誰もが共感を覚え、涙しました。「蝉しぐれ」に繰り広げられる ドラマの数々は、時代劇小説の枠を超えた最高のエンタテインメント作品と評されています。

 日本は今年、戦後60年を迎えます。戦後の荒廃からの経済復興、オリンピックを期に高度経済成長へ突入し、バブル経済の絶頂と崩壊を迎えるという激動の年代を生きてきたわけです。短期間でこれほど激動した時代経過は歴史的にみても稀といえます。この時代を過ごした私たちは、ある意味「日本人と しての心」、さらにいうなら「人間としての本当の姿」を見失いかけたかもしれません。振り返って「蝉しぐれ」に登場する文四郎が苦難に立ち向かう颯爽たる行動力、愛情に貫かれた信念と、文四郎を助け慕う清清しい親友たちの姿は、まさに混迷の時代に必要な理想の人間像として、読者に深い感銘を与えたのです。

 「蝉しぐれ」は、発売から10年を超えてもセールスを伸ばし続け、累計120万部を超える日本を代表する小説として愛され続けています。この傑作小説の出版(八八年文藝春秋)後、各方面から映像化のオファーが殺到しましたが、原作者としてその映像化を一切許すことはありませんでした。それは作者としても格別の思い入れがあるこの作品を、小説世界にのみ留めておきたかったに違いなかったのでしょう。このたびの映画化にあたって脚本と監督を務めた黒土三男は、他の誰よりも熱い情熱と信念で映画化への交渉を行いました。その道のりは、まさに執念というほかありません。黒土三男は、映画化の承諾前にもかかわらず、映画「蝉しぐれ」のために、日本の原風景を追い求めるロケーションハンティングを行い、脚本家としての命をかけて何度もシナリオの推敲に挑み続けました。 その結果、漸く、映像化の許諾を得ることになったわけです。(詳しくは、黒土監督「蝉しぐれ」へのメッセージ参照

 しかし、映画完成への道のりは決して平坦なものではありませんでした。傑作と評される原作の世界を忠実に再現するための条件が、そう簡単に整わなかったことはいうまでもありません。その間、まさに一五年。長い歳月に試行錯誤を繰り返しながら、黒土監督は先ず、テレビドラマにて映像化に着手し大きな光を見出します。2003年NHKで放映されたドラマ版(全八話)は、原作の雰囲気を忠実に再現したストーリーテリングにより絶大なる評価を受け、本放送後も二回再放送を行うという異例の実績を残しました。また、テレビ映像業界で世界最高の権威「モンテカルロ国際テレビ祭」のドラマ部門でグランプリを獲得。原作の世界観と高度に練りこまれた脚本、そして「蝉しぐれ」がもつテーマの普遍性が世界に認められたわけです。世界が認めた原作とシナリオは、テレビドラマで成功したポイントに更なる磨きをかけ、またドラマの世界では到達できなかった「蝉しぐれ」の世界を忠実に再現するため新たなる改良を加えることにより、研ぎ澄まされた至高のシナリオに到達したのです。

 遂に、藤沢周平「蝉しぐれ」、完全映画化です。2005年10月1日、完全なる映像によって世に送り出される映画「蝉しぐれ」を、ぜひともスクリーンでお楽しみください。

「蝉しぐれ」製作委員会 製作
株式会社電通 代表取締役社長

俣木盾夫

--------------------------------------------------

 

©2005 SEMISHIGURE All Rights Reserved.